大手航空会社ANA(全日本空輸)のグループ企業・ANA X株式会社から2026年3月24日、通信サービス「ANAモバイル」がリリースされた。
最大の特徴はスマホ料金の20%がANAのマイルとして還元される点だが、プラン設計からサポート体制に至るまで、お客様ファーストへのこだわりは細部に光る。
ANAモバイルの立ち上げからリリースまでのいきさつや苦労点、今後の展望について、開発時から事業に携わってきた樋口義洋氏・倉重千春氏・片野瑶子氏の3名にインタビューした。
あわせて、オールコネクトマガジンが独自に行った「大手航空会社の通信サービスに対する意識調査」に対して、ANA Xとしての知見を伺う。

樋口 義洋 氏
Higuchi Yoshihiro
役職:リーダー
担務:ANAモバイル事業責任者

倉重 千春氏
Kurashige Chiharu
役職:マネジャー
担務:ANAモバイルカスタマーサポート部門責任者

片野 瑶子氏
Katano Youko
実務担当者
担務:ANAモバイル事業全体統括
ANAモバイル誕生の理由は「究極の顧客接点」

ANA Xはこれまで、ANAマイレージクラブを「旅行のときだけのもの」から「日常でも自然に貯まるもの」へと進化させるため、決済サービスやライフライン事業など多様な分野に事業を拡大してきた。
その延長線上で同社が新たに選んだのは、通信サービスとマイルの組み合わせだ。
航空会社が通信事業に挑む理由とは何か、ANAモバイル誕生の背景から開発の裏側まで話を聞いた。
オールコネクトマガジン編集部ANAモバイル立ち上げのいきさつを聞かせてください。



通信サービスは24時間お客様と繋がっているサービスであり、究極の顧客接点となると思い、参入を決めました。
飛行機にたくさん乗っている方でも、実際に乗っている時間は人生全体の中では1%未満といわれていますが、残りの99%の時間にもANAグループとして価値を提供したいという考えから、企画が立ち上がっています。



生活に密着するサービスを多く展開されている中で、通信サービスが出てきたということですね。



そうですね。
ANA X は段階的にANA PocketやANA Pay、ANA Mall、ANAでんき、ANAガスなど日常におけるさまざまなサービスを展開してきました。
通信サービスへの参入の構想は、2年ほど前にさかのぼります。
当時、MVNO事業への参入が容易になり始め、さまざまな異業種や顧客基盤を持つ企業が参入しやすい環境が整備されたことも大きなきっかけとなりました。



構想から2年の月日を経て、ようやくリリースにこぎ着けたということですね。



企画段階では、MVNO事業として自社でシステムなどを構築したうえで参入するか、ホワイトレーベル形式で既存企業のサービスを借りて提供するかという選択がありました。
ホワイトレーベル方式であれば半年程度でリリースすることも可能でしたが、お客様にANAらしい価値あるサービスを提供したいという方針から、自社でのMVNO構築を決めました。
本格的な開発が始まったのが、約1年前の2025年4月頃からで、システム開発を含むプロジェクトを立ち上げています。
結果的に準備期間を長く取ることになりましたが、サービスリリース後には多くのお客様から好意的なご意見をいただいており、時間をかけてMVNO事業として自社でシステム構築やサービス設計したことが正解だったと考えています。
企画・開発で最もこだわったのは「お客様から見た分かりやすさ」


MVNOとして通信サービスに参入する上で、システムやプラン構築を一から自社で行うと決めたANA X。
未知の分野であえて困難な道を選んだ結果、自信を持って提供できるサービスになったと開発に携わった片野氏は言う。



約1年の開発期間で、苦労した点や特にこだわった部分を教えてください。



自社でシステムを構築し、お客様に提供するサービスを組み立てていくため、申し込み画面や配送方法、ホームページ上の見せ方、お客様対応まで、すべてを自社で企画・実装する必要がありました。
他社の状況を徹底的に調べ、お客様にとって最も分かりやすく、かつ簡単に申し込みができるようにすることを心がけました。
これが最大の難しさであり、同時にこだわった部分でもあります。



お客様の申し込みのしやすさやホームページのデザインについて、具体的にはどのようなイメージで構築されましたか?



ホームページについては、サイトのイメージカラーをブルーに統一し、ANAらしさを提供しています。
操作のしやすさも含めて、チーム全体で協議し、分かりやすさを最優先に設計していきました。
また、物理SIMをお客様にお届けする際の封筒も、ANAグループのサービスであることが一目でわかるようにANAカラーで統一するなど、オンラインでもリアルでも同じ世界観を感じていただけるようこだわっています。
マイル20%還元という魅力でお客様の期待に最大限応える


ANAモバイルでは、スマホの月額料金の20%がANAのマイルで還元される。
契約初月にはボーナス特典として500マイルが付与され、日常的にスマホを使用するだけで自動的にマイルが貯まっていくという仕組みが誕生した。



ANAモバイルの最大の特徴でもあるANAのマイルとの組み合わせですが、ターゲット層は元々ANAとの接点があったお客様がメインですか?



主なターゲットは、ANAカードをご利用いただいている方やANAでんき・ANAガスなどのインフラサービスをご利用いただいている方など、ANAマイレージクラブになじみのあるお客様です。
ANAモバイルをご契約いただくためには、ANAマイレージクラブへの加入が必要であるという点も大きいですが、同時にこれまでANAグループのサービスをご利用する機会の少なかった新規のお客様も視野に入れています。
例えば、従来は新幹線のご利用が多いお客様にも、ANAモバイルを利用してマイルを貯めていただくことで、飛行機の利用という新たな選択肢が生まれることを期待しています。



飛行機によく搭乗される方にとって、マイル還元ももちろんですが、ANAモバイルの利用でライフソリューションサービスのステイタス獲得につながるというのも魅力のひとつですね。
20種類の料金プランで様々なニーズに応えていく


ANAモバイルでは、1GBから100GBまで20通りのプランを用意しており、それぞれ音声付きSIMとデータ専用SIMが選べる。
ANAモバイルの料金プランを見る
| データ容量 | 音声+SMS+データ | データ専用 |
|---|---|---|
| 1GB | 750円 150マイル還元 | 650円 130マイル還元 |
| 2GB | 850円 170マイル還元 | 750円 150マイル還元 |
| 3GB | 950円 190マイル還元 | 850円 170マイル還元 |
| 5GB | 1,150円 230マイル還元 | 1,050円 210マイル還元 |
| 7GB | 1,400円 280マイル還元 | 1,300円 260マイル還元 |
| 10GB | 1,650円 330マイル還元 | 1,550円 310マイル還元 |
| 15GB | 1,950円 390マイル還元 | 1,850円 370マイル還元 |
| 20GB | 2,150円 430マイル還元 | 2,050円 410マイル還元 |
| 25GB | 2,350円 470マイル還元 | 2,250円 450マイル還元 |
| 30GB | 2,650円 530マイル還元 | 2,550円 510マイル還元 |
| 35GB | 2,850円 570マイル還元 | 2,750円 550マイル還元 |
| 40GB | 3,250円 650マイル還元 | 3,150円 630マイル還元 |
| 45GB | 3,650円 730マイル還元 | 3,550円 710マイル還元 |
| 50GB | 4,100円 820マイル還元 | 4,000円 800マイル還元 |
| 55GB | 4,600円 920マイル還元 | 4,500円 900マイル還元 |
| 60GB | 4,900円 980マイル還元 | 4,800円 960マイル還元 |
| 70GB | 5,400円 1,080マイル還元 | 5,300円 1,060マイル還元 |
| 80GB | 5,900円 1,180マイル還元 | 5,800円 1,160マイル還元 |
| 90GB | 6,400円 1,280マイル還元 | 6,300円 1,260マイル還元 |
| 100GB | 6,900円 1,380マイル還元 | 6,800円 1,360マイル還元 |
すべてのプランでマイル還元が受けられるのはもちろんだが、MVNOの中でも料金プランが豊富で、多様なニーズに応えられるのもANAモバイルの魅力と言える。



ANAモバイルの料金プランは選択肢が充実していますが、プラン設定についてのこだわりもお聞かせください。



料金プランについては、社内でも議論を重ねた部分です。
選択肢は少ない方がシンプルで分かりやすいという意見もありましたが、様々なニーズを持つお客様に対応したいというのが最終的な結論となりました。
また、自社でMVNOを構築する利点として、プラン設定の自由度の高さを最大限生かしたいという理由もありました。
結果的に細かいプラン設計にはなりましたが、リリース後のお客様の反応を見ると、好意的に受け止めていただいていると感じています。
当初、100GBプランはニーズがないのではないかという声も社内では挙がりましたが、実際には想定を大きく上回るお客様からお申し込みをいただいており、プランを多くしてよかったと思います。



特に人気の高いデータ容量はどのあたりですか?



20GBと30GBのプランが、ボリュームゾーンです。
当初の予想では、小容量プランに契約が集中するのではと考えていましたが、実際には20~30GB帯に多くの支持をいただいています。
サブ回線としてではなく、日常使いとしてANAモバイルをご利用いただく方が多いという意味で、ポジティブに受け取っています。
一方で、1GB〜5GBなどの比較的小容量のプランも多くの方にご利用いただいております。
メイン回線としてもサブ回線としても、ANAモバイルを選んでいただけており、大変ありがたく思います。



例えば、音声付きSIMの30GBと無制限かけ放題で年間10,320マイル貯まる計算になります。
この場合、具体的なイメージとしてマイルを航空券と交換するとしたら、どれくらいの距離の移動に相当しますか?



10,320マイルの場合、国内で言うとレギュラーシーズンの東京から札幌、福岡、沖縄といった路線の片道特典航空券と交換可能です。
1年間のご利用で短・遠距離の旅行に行けるという、非常に魅力的なサービスと考えています。
プロモーションほぼナシでもユーザーの口コミで広がった契約数



新しいサービスとしてANAモバイルをリリースされてから、知名度を上げるためにプロモーションで力を入れていることはありますか?



サービス開始から約1ヶ月半が経過しましたが、実は非常に控えめなプロモーション戦略を取っています。
自社ですべてを構築しているため、まずは安全かつ安定的にサービスを提供することを最優先にしているのが理由です。
しかし、口コミやSNSを通じて「ANAモバイルいいね」というありがたい評判が自然に拡散している状況で、プロモーションをほぼ行わない中でも、当初の想定の数倍のお申し込みをいただけています。



今後のプロモーションについては、どのようにお考えですか?



現在、サービスが十分に安定してきたため、今後はANAマイレージクラブのお客様に対してしっかりと認知を進めていきたいですね。
ANAグループの各種オウンドメディア、機内広告、アプリやSNSなどを活用しながら、お客様の認知拡大を図っていければと考えています。
大手航空会社という信用をカスタマーサポートにも反映





お客様がスマホ会社を選ぶ上で、サポート面を重視される方も多いかと思います。
ANAモバイルのサポート体制についても、お聞かせください。



元々、旅行事業やANA Mallなどさまざまなサービスを自社で提供してきたため、顧客対応経験を持つベテランスタッフがANAモバイルのカスタマーサポートを担当しています。
ANAのサービス品質に相応しいメンバーでお客様対応を行っている点が、大きなセールスポイントです。
通信サービスは初めての領域ではありましたが、半年の期間をかけてMVNOやモバイルの知識を習得し、お客様のご意見やお困りごとに答えられるようにしています。
また、ANAモバイルの開発段階でサポートメンバーも参画し、意見を交わしながら、お客様が申し込みしやすい導線を設計しました。



カスタマーサポートも自社で行うことで、応対品質やフィードバックの管理なども徹底できるため、お客様にとっての価値やサービスの品質向上につながると考えています。



事業部とサポート担当が一体感を持って進めるという方針から、定期的に両部署のスタッフで合同ミーティングを開催しています。
お客様からのお問い合わせ内容を検討し、その場でFAQを作成したり、ホームページの改善につなげたりしています。



お客様からは、実際にどのような問い合わせが多いですか?



申し込み後のお客様からのSIMの設定方法などのお問い合わせがよく寄せられます。
弊社は店舗を持たないため、電話とメールのみでの対応になりますが、電話で操作説明をしながら解決までサポートさせていただいております。
大手航空会社の通信サービスに対する意識調査


オールコネクトマガジン編集部では、年に1回以上飛行機に乗る500人を対象に「大手航空会社の通信サービスに対する意識調査」を行った。
調査結果からは、大手航空会社の通信サービスに対する信頼感やマイル還元へのニーズ、乗り換えに対する不安などリアルな声が見える。
樋口氏・倉重氏・片野氏の3名にも、調査結果への印象や解説を伺っていく。
マイルが貯まる通信サービスに対する認識は約65%が「知っている」


マイルが貯まる通信サービスに対する認識を調査したところ、「聞いたことがある」という人が最も多く、「知っていた」という人を含めると約7割に上る。
また、マイルがたまる通信サービスに対する関心度についても、同じく約7割の人が興味を示している。





ANAモバイル様としては、この認知度や関心度についてどのようにお考えですか?



弊社としては、マイルが貯まる通信サービス自体を浸透させるというより、まずはANAモバイル自体の魅力と良さをマイレージクラブのお客様に伝えていきたいというのが第一です。
また、現在マイレージクラブに入会されていないお客様も含め、通信サービスの利用でマイルが貯まることが魅力と捉えていただければ結果として航空機搭乗に繋がると思いますので、今後も認知を広げていければと考えています。
大手航空会社の通信サービスに対する印象は期待値が高い


大手航空会社の通信サービスに対する印象について聞いたところ、「月額料金が高そう」というイメージが最も多かったが、「お得な特典がありそう」「安心できる」「サービスが充実していそう」といったポジティブなイメージが割合の大部分を占めた。



大手航空会社の通信サービスに対する印象について、どのように感じられますか?



月額料金が高いというイメージがある中で、ANAモバイルは手軽にご購入いただけるような価格帯に設定し、マイル還元も最大限20%で提供するという設計にしています。
アンケート結果は、ANA Xの事前調査での予想とほぼ一致しており、お客様が期待されている部分に対してしっかり応えられるサービスになっていると感じます。
スマホ料金の20%相当がマイル還元される点に魅力を感じる人は多い


マイルが貯まる通信サービスに魅力を感じる点として、「スマートフォン料金がマイルとして還元される点」が最も大きく、「日常の固定費を旅行移動の価値に変えられる点」もメリットと捉える人は多い。



マイルが貯まる通信サービスに魅力を感じる点については、ANAモバイル様でアピールしたい部分と重なる結果になったのではないでしょうか?



まさにその通りだと思います。
ANAモバイル最大の価値は、マイルを獲得して、旅行や日常のお支払いに使っていただくことです。
アンケート結果は、通信費を新たな価値に変えていくという体験をお客様に提供していきたいというANAモバイルのコンセプトと一致していると感じています。
マイルでのスマホ料金支払いや航空会社ならではのサービスへのニーズが高まる


「マイルが貯まる通信サービスに追加されると魅力が高まる機能・特典」については、「貯まったマイルを月額料金の支払いに使える機能」が最も多く、「搭乗回数や利用実績に応じた追加マイル特典」や「機内WiFiや旅行関連サービスとの連携」といった意見も見られた。
大手航空会社ならではのサービス強化に、ユーザーからのニーズも高まっていると言える。



アンケート結果を踏まえて、ANAモバイルとして今後追加を検討したいサービスや進化させていきたい部分はありますか?



マイルを月額料金に使いたいというニーズについては、弊社で行った事前調査でも認識しており、実装の可能性も検討中です。
他のサービスとの連携についても認識していますので、具体的なタイミングなどについては明言できませんが、今後お客様の声に基づいて改善や機能追加を考えていければと思っています。
ANAモバイルを今後より良いサービスにしていくために、今回の調査結果も参考にさせていただきたいと思います。
乗り換えの課題とANAモバイルが考える解決策


マイルが貯まる通信サービスへの乗り換えを検討する際の課題として、「月額料金が本当にお得か判断しにくい」という意見が4割を占める。
また、「飛行機の利用頻度が低くてメリットを感じにくい」「マイルの価値を実感しにくい」といった声も聞かれ、乗り換えの壁を越えるためには、マイル利用の幅広い可能性をアピールする必要がある。



お客様からの意見に対して、ANAモバイルの課題点として感じていることはありますか?



マイルが貯まるという点が大きなポイントになるため、お客様からもマイルの使い方に関する問い合わせが多く寄せられます。
マイルは特典航空券だけではなく、ANA Payにチャージすれば日常のコンビニ支払いに使えますし、ANA Mall(ANA X運営の通販サイト)でのお買い物にも使えます。
貯まったマイルの使い道や使いやすさへのアピールも必要だと感じています。



ANAモバイルへの乗り換えの壁を越えていくための施策などはありますか?



まずはマイルに価値を感じていただいているANAマイレージクラブのお客様に対して、ANAモバイルの存在を繰り返しお伝えする活動を、地道にやっていくことが重要だと考えています。
また、手続きフォームなどのユーザーインターフェース(UI)は分かりやすさにこだわって設計しているので、シンプルな手順でお乗り換えの手続きを行っていただけると思います。
お客様の声を取り入れながら進化を続けていきたい





ANAモバイルとしての今後の展望をお聞かせください。



ANA Xにとっても新しいサービスということで、お客様からいろいろなご要望や「こういうオプションを付けた方がいい」というご意見をいただきます。
お客様ファーストのサービスになるよう、いただいたお声にもしっかり応えていきたいと思っています。



ANAモバイルはどのようなお客様に使っていただくのが最適だと考えますか?



日常と非日常の両方にマイルの価値を感じてくださるお客様に、ぜひご利用いただければと思います。
毎月のスマホ利用によってマイルが貯まる究極の顧客接点サービスだと考えていますので、マイルに関心があるお客様にこれからもアピールしていきたいです。
ANAモバイルは単なる通信サービスではなく、「日常のスマホ利用を、非日常の旅行体験へとつなげる」というANAならではの価値を提供している。
自社構築によるMVNOという難しい道を選んだのも、ANAらしい品質でサービスを届けたいというこだわりからだった。
今後はマイルの使い道の拡充やANAサービスとの連携など、ユーザーの声を取り入れながら、さらなる進化も視野に入れているという。
ANAの世界観やお客様の信頼を忠実に反映するANAモバイルは、新しい価値を提供する通信サービスとして、今後もさらに羽ばたいていくことだろう。


